私は今までコラムニストとして、そして積極的なSNSユーザーとしていろんなトレンドが発生し、そして死んでいくのをみてきました。モンゴルは、公式な統計上もソーシャルメディアをもっとも積極的に使う国の一つです。市民社会の出現として、ソーシャル・メディアユーザーの影響力は一日一日と力を増すばかりで、2018年が始まってからは税金引き上げや上海協力機構への加盟対抗に成功し、2大臣、1議員を辞任に追い込みました。そういうった中でも、中小企業支援基金の使い道を非難する今回の反対運動のように、2週間に続いてその勢いが強くなるばかりのトレンドはみたことがありません。

物事の発端は、10月26日に食料軽工業大臣が中小企業支援基金から1,000憶トゥグルクに上る資金を国会議員やその他国家公務員の家族や関係先の企業に貸し付けた事実が報道されたことにより始まりました。国民は激怒しました。その理由として国会議員の道徳や利害関係の衝突に加え、少なくとも次の3つを挙げることができます。第1に、普通の実業家にとって借り入れがほぼ不可能な大金を、市場平均より何倍も低い金利にて借り入れた議員等は、B.Oyundari氏をはじめ銀行を所有していたり、遺産を受け継いだ財産家だったりしたこと。第2に、J.Enkhbayar氏をはじめ国会やメディアではもっとも大きい声で公平性や平等性をアピールする人たちだったこと。第3に、3%という夢のような金利にて借り入れた議員らは普通の市民に対して年間30%にも上る金利にてお金を貸し付ける非銀行金融機関を経営していること。そして、その人たちが国民の非難を受けて、「すぐ返すから」、「偉い事業をやってあげていたのに」などと、反省するどころか開き直る姿勢でコメントしたことも火に油を注いだような結果をもたらし、報道から5日経った10月31日に食料軽工業大臣B.Batzorigが辞任に追い込まれました。

中小企業支援基金よりもはるかに大きい金額の汚職や予算の無駄使いを我慢してきた国民。中小企業基金は、事業展開に苦労し、高い金利の住宅ローンや事業ローンに苦しめられてきたその心理の真ん中に的を射りました(痛)。このような苦難を強いられてきた国民にとって1大臣の辞任はまったく十分でではない様子。

政治的には、現役の総理大臣フレルスフの派閥と言われる「33の派」から数名の名が指摘され、野党の民主党や前首相の派閥と言われる「32の派」から避難の声が上がりました。民主党出身の大統領も登場し、国会が解散しなければなんと中央広場で絶食運動を行う可能性も示しました。国会議員らに責任を求めるのと、大統領による大統領制への移行政治を懸念する心理が混雑する中、前内閣の食糧大臣が貸し付けた資金や民主党が政権を握っていたとき開催されたACEMの予算浪費など、33の派だけではないということを裏付ける様々な証拠が大量に流出する運びとなりました。

実際、利害関係の衝突や国家の汚職が発生しているのが中小企業支援基金のみではありません。基金だけでも29種の国家特別基金があります。騒動が続く中、家畜保護基本や栽培支援基金に関する様々な不公正な貸し付けや入札を裏付ける事実関係が明らかになってきています。

モンゴルは1990年に民主主義を採用し、市場経済への移行を開始しました。市場経済といっても計画経済の名残が強く、国家予算の役割や国家主導に大きな期待が寄せられてきました。小選挙区制の短所もあり、国民に現金や福祉政策を約束する政治が展開されてきた中、特定な社会グループを優遇する様々な特別基金や福祉プログラムが実施されてきました。2000年比名目GDPは約10倍成長したのに対して、名目国家予算支出が20倍増えたのも市場よりも国家の経済が拡大してきたことを示しています。

11月に入ってからは特筆すべき出来事として企業登記や個人資産に関する国家登録データが一般公開されました。それによって、たとえば中小企業支援基金から援助を受けた企業名がわかっていれば国家登録データベースをそのIDで検索することによって株主や創業者の氏名を知ることができるようになりました。それが、今までメディアにとってさえ入手困難だった情報を普通の人が検索して事実関係を捕まえることが可能になったことを意味します。実際、ツイッターではグラス口座法(政府機関に対して500万トゥグルク以上の支出の一般公開を義務付けた法律)による公開情報や企業データ検索によって国から有利な条件でお金を借りたり、入札に勝ってきたりした政治家を特定する作業が今までと比べる非常に多様な参加者の貢献によって行われています。

市場経済に移行してから、産業や生産よりも消費、そして特定の企業や個人を優遇する政策が支配してきたモンゴル。ITを駆使したデータの自由化、一般市民の認識の高まり、SNSの影響。憲法や国家のあり方に関する論争。29基金の事実関係が過去30年にわたって政権を担ってきたほとんどの政治家を巻き込む可能性。今回の騒動とそれに伴う新政党や市民運動がこれからの政治力の均衡や経済政策にどのような影響を与えうるのでしょうか。現象が複雑すぎて予測し難い時期ですが、これからのモンゴル社会は大きな転換期を迎えているに間違えありません。

 

(表紙写真の出所:zindaa.mn

ps. 辞任直前の食糧軽工業大臣の写真ですがが謝っているのではなく、席を整えている瞬間を捉えたのだそうです。)